好きな人をただ観察するだけの日記。

好きな人をただ観察するだけ。

観察93日目。

待ち合わせの時間に少し遅れて

君は小走りで僕に近付いてくる。

「ごめんね?待たせちゃって」

両手を合わせ、ペコペコと謝る君。

「全然、大丈夫。そんなに待ってないよ」

あたかもさっき来た風を装った。

実は一時間以上も前から近隣のカフェで

緊張しながら待っていたなんて言えやしない。

「予約、間に合う?急いで行かなくちゃ!!

僕の腕を引っ張り、早く早くと誘導し

君の着ているホワイトベージュ色のコートが

ひらりと僕の腕に触れる。

ベビーピンクのヴィトンのマフラーも

凄く似合っていて可愛い。

駄目だ、少し落ち着いた筈の緊張が蘇る。

胸の鼓動が微かに早くなるのを感じながら

足早に猫カフェへと向かった。

今日一日、僕の心臓が持ちます様に。

いよいよ明日。

君に会えなくなって51日目。

まあどうって事ない日数だが、

僕にとっては結構な感じである。

君を好きだと認めてからずっと

君の側を離れた事なんてなかったのだ。

 

そして明日、君と会う。

これが最後だろう、いや最後にする。

気持ちにけじめを付け、

来春、僕は異動で北へと向かうのだ。

ボーナスが入る少し前に上司に呼び出され、

随分と以前に出していた異動希望が通った。

凄く嬉しかったし、

やはりこれはけじめをつけるチャンスだと、

改めて感じた。

 

明日、なんて話そうか?

きっと色々決めたって

上手く話せないに決まっているけれど、

とりあえず、何をどの順番に話すかだけ

決めておこうと思う。

流石に猫カフェではそんな話は出来ないので

結局自宅に呼ぶ事になってしまった。

君がどうしても来たい(部屋が見たい)らしく

断り切れなかったし、これが最初で最後だ。

どうせ来春には引っ越すのだから

そんなに辛くはないだろう。

 

年末に少しだけまとまった休みも取れた。

先に異動先を偵察しに行く事にしている。

今年は暖冬で雪が少ないらしいのだが

温泉宿に泊まるのも楽しみだし、

車を借りてドライブもしてみようと思う。

君に会うより、異動先の偵察の方が

実ははるかに楽しみだったりしている。

 

 

 

観察91日目。

結局雪花さんには返信せず、

君にだけ謝罪のLINEを送った。

いつもなら返信が早いのに

今回は遅かったので心配されてしまった。

とにかく謝るしかなかったし、

君のご機嫌は悪くなかった様なのでよかった。

でも、鍋パーティーの事を

凄く良く聞きたがり少し困惑する。

君が嫉妬してくれてたなのならば

少しばかり嬉しいなんて思ってしまうけれど、

それは無いとわかっているので

淡々と詳細をLINEで説明したら、

「女の子とLINEの交換とかしなかったの?」

などと聞いて来たのでどきりとしてしまった。

でも嘘をつく訳にもいかないので

ちゃんと真実を伝えたら、

「ふーん、その人の事、気になってるの?」

と、またもや質問されてしまった。

気にならないと言うかそう言う対象では無いし、

僕は君が好きだから…なんて言える筈もなく

適当に誤魔化してやり過ごした。

なのに君は、

「いい人なら付き合っちゃえば?」

思いもよらないショックな台詞に落胆する。

ほらな、君が僕に嫉妬する要素なんて皆無。

僕の方がショックを受けているよ、全く。

まあ、それでいいのだけれど、ね。

 

 

観察90日目。

昨日は友人宅で鍋パーティーを開催した。

僕の友人二人と、友人の知人の女の子三人。

さながら学生時代の合コンみたいな雰囲気。

あまりこういう感じが好きではなくて

早くも帰りたい気持ちになってしまった。

僕はこの鍋パーティーの料理班に

選ばれていたので断る訳にも行かなかったし、

2ヶ月間自炊を頑張った

成果も試してみたかったのだ。

初めて他人に振る舞うので失敗はしたくない。

などと言っても鍋なので

不味くなる心配も少ないんだけれど…

そんな中、君はいつもより沢山LINEをして来て

僕は焦りながら時々こっそり画面を見つつ、

鍋の用意をしたり、周りへの気配りをしていた。

一通り支度も終わり

シャンパンで乾杯をし、いざ鍋開始。

君から届く溜まる未読LINEを気にしながらも、

鍋奉行をしていた。

僕は割と返信は早くしたい派なので、

スルーや放置が出来ないタイプ。

でもこういう場でスマホを見たり、

返信したりするのはマナー違反だと思っているので

一人になった時や、

トイレに立った時にする様にしている。

だが、なかなか行けないのが現状だ。

鍋の味の方は友人達にも女の子達にも大好評で

お酒も進むし、二杯目の鍋を作ったり、

最後の締めのカルボナーラを作る為に

支度をしたりと僕は大忙しだった。

一人でキッチンに籠りLINEの返信が出来る

チャンスがあったのだが、

女の子の内一人が手伝うよ、と言って来たので

到底断れる訳もなく、手伝って貰う事にした。

集まりの初めの自己紹介で雪花と名乗ったその子は、

肌が陶器の様に白く、それが印象的だった。

料理の下ごしらえも手馴れている様で、

テキパキとこなして行く姿を横目でみつつ、

何か話さなくちゃと、ぎこちなく会話を始めて

相手の情報を得る。

雪国の生まれで、大学進学を機に上京し、

そのまま東京で就職して、

僕の友人と同じ会社でOLをしている事や、

今日の鍋パーティー

凄く楽しみにしていた事を聞いた。

何故そんなに楽しみにしていたのかを聞くと

男の人が作る料理に興味があったからだと言う。

僕は鍋は料理のうちに入らないと答えると、

鍋の素を使わないで作れるなんて凄い事なんですよ、

と褒められてしまった。

…褒められて嬉しくない訳がないのだけれど、

恥ずかしさもあり笑って誤魔化しつつお礼を言った。

結局ここでも君にLINEを返す事が出来ずに

皆の元へ戻り、カルボナーラを振る舞う。

手伝いをきっかけに雪花さんとも

席が隣同士になったので色々話す事になった。

そして…本来であれば終電前に

お開きになる予定だった筈なのだが、

酒が入ったせいもあり、大いに盛り上がってしまい

結局僕は泊まる事になってしまったのである。

そして帰宅した今、僕は困っている。

まだ君に返事を返せていない上に

君はかなりご立腹の様だ。

LINEの返信をするより

電話をして謝った方がいいんじゃないかと

さっきから画面とにらめっこをしている。

それともう一つ。

雪花さんとも(だけじゃなく参加してた全員と)

LINEのアドレス交換をしたのだが、

そちらも未読のまま返していない。

返せない理由は、

「またお逢いしたいので連絡下さいね」と

来ているからだ。

僕は逢うつもりが全くない…

ああ、面倒臭い事になってしまったなぁ。

けれどもう眠すぎるので一旦保留。

おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観察89日目。

会ってはいないものの、

LINEのやり取りは殆ど毎日続いていて

君と顔を合わせていない日が、

今日で43日目などと

指折り数えている自分がいる。

一人暮らしも大分慣れて、自炊もだんだん

上手くなって来た。

明々後日は友人と鍋をする約束をした。

僕の家ではなく、友人宅でだが作るのは僕。

しかも、女の子も参加するらしい…

今日は試作品としてチーズフォンデュ風鍋を

作って食べて見た。

うん、女の子達はきっと喜ぶ味だろう。

少し高めの白ワインを味付けに使って、

残った分を飲みながら君とLINEをしている。

鍋パーティーをする事と今日の鍋の写真を送ると

お鍋は美味しそうだけどなんかもやる…と返事が来た。

もやる、か。

それがどういう意味なのか少し考えたけれど、

思わせ振りなだけで深い意味はないのだ。

と考える様にしている。

さて、カウントダウンは始まった。

気持ちに区切りを付ける準備を始めよう。

 

 

 

 

結末には霧の様に消えゆく白さを。

気持ちを閉じ込めて小さな箱に仕舞う。

霧の様に少しの冷たさだけ残して、

全部押し込め留めておく。

決して言葉にはしない。

言葉にしてしまったら

それは大粒の涙に変わってしまうだろう。

 

最後の日は、笑顔でさよならと告げたいんだ。

僕がこの気持ちにピリオドを打つ時は、

君の笑顔だけを胸に閉まって旅立ちたい。

どうか幸せになって欲しい。

どうかいつも笑っていて欲しい。

もう側には居れないけれど

君が必要とする大切な人と結ばれます様に。

僕の願いはただ一つ。

君が幸せでいてくれる事、それだけなんだ。