好きな人をただ観察するだけの日記。

好きな人をただ観察するだけ。

観察100日目。

そして続けて

「お兄ちゃんの事、すっごく頼りにしてるし大好きだよ」

僕は君のその言葉を聞いて、小さく息を吸った後、

「ありがとう、な」

君の頭をわしゃわしゃと大きく撫でてやった。

「あっ、もうやめてよぉ、髪型が崩れるぅ!!

「あはは、いいじゃん、もう家に帰るだけなんだし」

「そう言う問題じゃないんだってばぁ、やーめーてー」

「嫌だね、やめてやらない」

抱きしめたくなる衝動を撫でる事で押さえつける。

 

僕は君の兄なのだから、そのイメージを壊す訳にはいかない。

ずっとずっとそのイメージ通りの兄でいたいんだ。

僕のこの気持ち悪い感情で君を壊したくない。

だから僕はずっと君の思う理想の兄を演じ続ける。

そんな事は全然辛くないんだ。

寧ろ君の側に半永久的に家族として見守れる完璧で最強の存在なのだ。

君の幸せは僕の幸せ、

これからもずっとそれを願い生きて行く。

 

 

あとがきにかえて

 短い間でしたが、ご静読ありがとうございました。

 コメント下さった方々、リプやいいね下った方々、

 とても嬉しくもあり、励みにもなりました。

 ですがこんな気持ちの悪い男で申し訳ない気持ちも

 ありました、すみません。

 

 それでは、さようなら。

観察99日目。

君と過ごす時間はいつもすぐに過ぎて行く。

もう少しだけ、などと思っているのに

もっと時間が長ければ、と願う僕もいるのだ。

結局君といる間は僕の決心など簡単に揺らいでしまう。

だから君といる時間を減らしたつもりなのだが、

意味はあまりない上にたった数ヶ月じゃ足りない。

外もすっかり暗くなってしまって、

もうすぐ夕食の時間近くだ。

「そろそろ夕飯だし、駅まで送って行くよ」

と切り出したのだが、君は僕の作る夕食を食べたいと

我儘を言い出した。

「家で母さんが用意してくれてる筈だから駄目だよ」

そう諭すと、より一層頬をぷっくりと膨らませて怒る。

嫌だ、帰りたくないと駄々をこねる君に、

「ほら、帰るぞ」

手を差し伸べると君は諦めたかのように

無造作に僕の腕にしがみ付き

いなくなって初めて気がついた事があるの」

なんて言うから少し心拍数が上がるのを感じつつ

「何に?」と聞いた。

「私、結構淋しがり屋で超ブラコンだって事‼︎

ぺろりと下を出して恥ずかしそうに少し大きな声で言った。

観察98日目。

君用のカフェラテと自分用のエスプレッソを運ぶ。

君の隣に座るのは気が引けたので、

君の目の前にスツールを運んで座った。

「なんか急に大人になっちゃった気がする」

「そうか?全然変わらないけど?」

「そうなんだけどぉ、なんかこう言うの見慣れてないからかも」

ソファの上でクッションを抱えたまま体育座りをし

ぎゅっと顔を隠す。

そんな仕草が可愛らしくてどきりとした。

僕は照れ隠しに、料理の話をして誤魔化す。

今度手料理を食べさせてよねって思い出したように君は言う。

その今度は、きっと来ない。

だって僕はもうすぐここからいなくなる。

君から遠く離れて行く。

そしてこの気持ちもゆっくりと打ち消すつもり、だ。

だからもう少しだけ、僕の目の前で笑っていて欲しい。

君の幸せを心から全力で願える存在に戻る為にも。

演じている僕では駄目なのだ。

本来の僕に戻らなければ駄目なのだ。

この気持ちを消し去らなくては、

君にとって相応しい立場の僕になる事が出来ない。

だからもう少し、だけ。

観察97日目。

君は迎え入れる僕の部屋は全体的に白い。

その白さが目に入ると、暴走しがちな感情が抑えられた。

部屋に入るなり君は

「なんかお洒落すぎる!」

なんて何故か少し怒りながら部屋中を見渡す。

「家にいた頃はこんなんじゃなかったのにー」

二人掛けのソファを見つけ座っていい?とジェスチャーするので

どうぞと言った。

置いてあるクッションをぎゅっと抱きしめて

「さては彼女出来たな?正直にいいなよ?」

僕の顔を覗き込んで聞いてくる。

「彼女なんていないよ」

「えー嘘だ、これ全部ひとりで考えたお部屋のコーデなの?」

「勿論、まあ店の人にも相談はしたけれどね」

そう言うとやっと理解したようで、なーんだと足を伸ばして言った。

嘘でもいるって言ったらどんな反応をしたのだろうか?

なんて思っては見たものの、嘘をつくのは違うからやめた。

僕はエスプレッソマシーンで君の好きなカフェラテを作りながら

君の話に耳を傾ける。

やはり違和感、だな。

君が僕の部屋にいる事、が。

観察96日目。

他愛の話を二時間、猫達に囲まれながらした。

本当にあっという間に時間が来て、猫カフェを後にする。

店を出てからも君の口の動きは止まらない。

僕はそんな君を可愛いと思いながらずっと見ていた。

「次、お家行こうよ!」

出た、言われたくなかった台詞。

でも言うのだろうなとは分かっていた。

僕が君を部屋に迎えるのは、これが最初で最後だと決めている。

どうせ来春には引っ越すのだ。

もう諦めて自宅へと招く為にした。

途中コンビニで買い物をして僕の自宅へと向かう。

3ヶ月もしたら、この東京から北へと遠く離れる。

でも、まだ君には言っていない。

ギリギリまで伝えるつもりもない。

そしてこの気持ちも、だ。

だが、そんな気持ちとは裏腹に緊張している。

告白する訳でもないのに、さっきから上の空だ。

僕は時々自分が分からなくなる。

決めていた事を守れない位、自制が効かなくなるのが怖い。

それほどに感情という生き物と常に戦っているのだ。

観察95日目。

僕達は久しぶりに逢うのに全然そんな感じはしなくて、

シャンクのおかげもあってか、

緊張もほぐれいつも通りの感じで話す事が出来た。

たった2ヶ月間逢ってなかっただけなのに

君は話したい事が凄くいっぱいあるんだよ、と

いつもより少し早口で色んな事を話し出す。

女の子の話を聞いている時、いつも思う事があるのだけれど

どうしてこう脈絡がなく、次々と色んな話題を話せるのだろう?

などと感心しながら聞いている。

でも時折脱線し過ぎて、さっきの話のオチは?とか突っ込みを

入れたくなるのだけれど、君を含め大抵の女の子は忘れている。

そんな所も可愛いく思えるのが、女の子の特権なのだろう。

学校の事、家族の事、友達の事、ディズニーリゾートに行った事、

僕は君の話す事を記憶しながらずっと静かに聞いている。

君の話した事を忘れたくないからだ。

その間もシャンクは僕と君の間でスヤスヤ寝ているのがまた良い。

そして僕の膝の上にキジ虎柄の猫がやって来て撫でてよ、と座った。

こうしている時間が凄く幸せだな、と

膝の上に乗って来たトランという猫を撫でつつ、

君の話に相槌を打った。

観察94日目。

予約した猫カフェに到着。

生憎今年はイブもクリスマスも平日なので

その代わりに今日明日を過ごすカップル達の

予約で店内もいっぱいだ。

僕達もそんな風に見えるのだろうか?

クリスマス仕様の店内のカップル席に案内されてしまった。

まあ、男女2名で予約したせいもあるが、

隣合わせの席は僕の緊張を更に加速させる。

でも君はそんなの御構い無しという感じで、

「何頼む?取り敢えずここではお茶するだけでいいよね?」

ドリンクメニューを開き、どれにしようかなぁ?と

悩む君の隣に30センチ程の空間を開けて座った。

ドリンクを悩んでいる間に、

僕と君の間にある空間にすかさず一匹の猫がやってきて、

その隙間を埋める様に丸く収まる。

白銀の毛長種で澄んだグリーン色の瞳が美しいその猫は

僕の顔を見ず、君の顔をじっと見てニャアと鳴く。

その様子を君は小さく黄色い声を上げながら

「どうしたの?遊んで欲しいのかな?」

ゆっくり優しくその猫の背中を撫でた。

この猫、きっとオスだなんて思っていたら

店員さんがオーダーを取りに来た時に

その猫の名前とオスだと説明された。

やっぱりな、お前にも彼女の可愛さが分かるのか?

僕はそんな風に思いつつ、

シャンクと言う名のそのオス猫の顎の下を撫でた。